日本の環境価値取引、世界に追いつけるのか

カーボンゼロ時代に向けた、私の静かな決意
最近、私たちは「環境価値」という新しい言葉を耳にする機会が増えてきました。CO₂をどれだけ削減したのか、それが“価値”として取引される──。
これまでの経済とは異なる、新しいルールが今まさに形づくられつつあります。
しかし、その変化のスピードは世界と比べるとどうでしょうか。
日本は、本当にこの大転換期に追いつけるのでしょうか。
そう問いかけたいと、私は強く感じています。
■ なぜ今、環境価値取引が重要なのか
日本が直面する「構造的な遅れ」
政府と東京証券取引所は、CO₂排出量を売買できる「カーボン市場」を急速に拡大しています。
2023年10月には、国が認証する「J-クレジット」を取り扱う市場が開設され、さらにマーケットメイカー制度や超過削減枠の売買制度まで導入されました。
これは、世界のカーボン市場の流れから大きく遅れつつある日本の“巻き返し”の動きです。
ヨーロッパではすでに排出量取引市場(EU-ETS)が定着し、アメリカでも自発的市場が企業の脱炭素戦略を加速させています。炭素に価格をつけ、その価格が企業の意思決定を左右する──これは世界ではごく当たり前のことになりつつあります。
しかし日本は、「制度が複雑すぎる」「流動性が低い」「企業の参加が限定的」といった課題を抱えており、世界の潮流に完全に乗り切れていないのが現状です。
「やらなければならない」状況が迫っている中で、まだ制度と現場の歯車が噛み合っていない。これが私自身の率直な危機感です。
■ 私が信じる「環境価値取引の未来」
市場は“つくり直す覚悟”を持った者に味方する
私はこれまで、企業と投資家、そして森林現場と向き合いながら、カーボンクレジットの本質的な価値を学んできました。環境価値とは、単なる数字の売買ではありません。
それは「社会がより良くなるための行動そのもの」に値段をつける行為です。
私が痛感していることがあります。それは、日本のカーボン市場はまだ“未完成”であるがゆえに、大きく伸びる余地があるという事実です。
不完全であることは弱点であると同時に、伸びしろでもあります。
制度が整っていない。市場参加者が少ない。情報が偏在している。
だからこそ、今から関わる人たちが「市場を作る当事者」になれるのです。
私自身、この過渡期に事業を行う中で、数多くの困難に直面してきました。森林保全に携わる人々が適切な評価を受けられない現実。企業がクレジットの仕組みを理解しきれず、踏み出せずにいる状況。
しかし、それらを一つひとつ解きほぐしていく過程で、私は確信するようになりました。
環境価値取引は、日本社会が本気で変わるための“最後のピース”になり得る。
そして、その未来を形づくるのは、制度ではなく「人の意思」だということです。
■ 日本が世界に追いつくために──私の提案
必要なのは「スピード」と「透明性」、そして「現場の声」
私は未来をつくるために、次の3つが絶対に必要だと考えています。
① スピードを止めないこと
世界の市場はもう走り始めています。
制度設計、データ整備、モニタリング技術──あらゆる分野で日本は「急がなければならない段階」に来ています。
② 市場の透明性を高めること
環境価値は見えないものだからこそ、
「どうやって削減されたのか」「誰が、どのように価値を証明したのか」
これが明確である必要があります。
③ 現場の声を市場に反映すること
森林を守る人、再エネを推進する人、地域の生活を支える人──
現場を“数字”に変換するのではなく、現場に“価値”を返す構造が必要です。
そして私自身、この3つの実現に向けて、企業支援やプロジェクト形成、地域連携などの取り組みを一歩ずつ進めています。市場の仕組みをただ眺めるのではなく「改善し、共につくる側」に回る覚悟を持っています。
■ 未来を共につくる仲間へ
私たちは、またとない大転換期の入り口に立っています。
環境価値取引は、一部の専門家や大企業のためだけのものではありません。
未来の子どもたちに残すべき「社会の形」を選び取るための仕組みです。
だからこそ、今私は強く感じています。
この市場を育てるのは、私たち一人ひとりの意思である。
日本が世界に追いつき、さらには独自の強みを持つ環境価値大国となれるかどうか──その鍵は、今この瞬間からの行動にかかっています。
どうか、共に未来を考え、行動していきましょう。

